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家族を思う気持ちと法律はイコールではない
映画は、三重県の伊勢志摩を舞台に、真珠養殖を営む両親をもつ三人姉妹の三女・大亀遥海を比嘉愛未さん、認知症の疑いがある遥海の父親の成年後見人として大亀家にかかわる弁護士・城島龍之介を三浦翔平さんが演じた。相続を巡る「学びあり」「笑いあり」「涙あり」のエンターテインメント映画だ。
——今回、「相続」をテーマに選んだ理由を聞かせてください。
父や母が亡くなり、財産や負債について姉弟と話し合ったり、ほかに身寄りのない叔母が残したものを処分したりする中で、どういう風に自分の人生をしまうべきなのかを考え始めました。
そこから相続に興味をもって調べていくと、亡くなった親が一番大切にしたかった家族が相続によってもめたり、仲が悪くなったりという事例がたくさんあることを知りました。
日本が超高齢化社会に向かう今、残された大切な人たちを幸せにするには、相続について生きている間に話し、理解しておくべきではないかと思ったのが原点です。
——相続問題の中でも成年後見制度に焦点を当てたのはなぜでしょうか。
相続について調べる中で、2000年に成年後見制度が始まり、肉親以外の弁護士や司法書士、行政書士が成年後見人に選ばれるケースがあると知りました。財産分与など親族だけで考えるものだと思っていたら、他人が客観的にジャッジする制度があるんだと。ただ、制度がわかりづらく、利用した人が逆に、成年後見人となった専門家を訴えるなど問題があることもわかりました。日本人特有の「先生」に任せておけば大丈夫だと思っていたら、こんなはずではなかったということが起きている。
中には、祖父が孫の大学費用として渡してくれていたお金を、成年後見人の判断で使えなくなり、大学をやめたという事例もありました。成年後見人は「サポートする人にとって必要なもの」にしか本人のお金を使うことができません。したがって、大学費用は「孫のため」であって、「本人のためではない」となります。
これは、法律としてはよしなんでしょうが、それは祖父の思いとしてはどうなのか。映画でも「法律は法律を知っている人にしか味方してくれない」という台詞が出てきますが、自分たちが家族を思う気持ちと法律は決してイコールではない。今ある制度を僕らは認識しなきゃいけないと思いました。
成年後見人にも家族にも善い部分、悪い部分がある
——タイトルの「親のお金は誰のもの」という言葉が印象的です。
欧米で「父母のお金はだれのもの?」と聞くと、6、7割の人が「父母のもの」と答えるそうです。日本では逆で「親のお金は子どものもの」と答えるそう。本来、親のお金は親のもので、子どものお金は子どものものであるはずです。そういう中で起きる相続をどう考えていけばいいのか。
タイトルに「法定相続人」との言葉を入れたのは、「成年後見人」ではなじみがなく、相続の話だとわかりづらいと思ったからです。もともとは、もっと悪い成年後見人の弁護士を主人公に描こうと思っていました。ただプロットをつくっていくうちに、財産を受ける側も渡す側もジャッジする側もいろんな欲がからんでいるとわかってきた。一人を描くよりも親や子どもの思いも描きたい。もっとやわらかなタイトルの方がわかりやすいのではないかと提案しました。
——映画では成年後見制度のさまざまな問題点が描かれています。
映画には成年後見人を務める弁護士によって母親名義の家から追い出される夫婦など歯車が狂ってしまった人たちが出てきます。母親の面倒をみていたのに、なぜそんな仕打ちをされるのか。一見すると成年後見人側が悪いように見えますが、法律の視点でみると、実は夫婦は親に寄生していたり、親の年金を使い込んだりしていたかもしれない。日本社会でありがちですが、親の家であろうとも本来は家賃を支払い、生活費は自分たちの収入から支払うのが筋ではないのか。
成年後見人にもそれぞれの家族にも善い部分、悪い部分があり、つじつまを合わせながら生きている。それがまさしく私たちが生きている社会。映画では善悪をはっきり描かず、見る側に預けています。自分はどちらの立場なのか、きっと気づくのではないでしょうか。
硬い内容をコミカルに描き、気づきのある映画に
——相続や成年後見人という硬い内容を扱っていますが、コメディータッチで描かれています。
法律的な部分は三重県弁護士会の専門家らと1年弱くらいやりとりしながら作っていきました。弁護士さんや行政書士さんの話を聞いたり、取材で相続に向き合っている方たちの話を聞いたりすると、皆さん辛いことの方が多いんです。相続というと重たいテーマになりがちですが、もめて家族バラバラというような暗くて悲しい物語ではなく、家族を幸せにするためにどうしたらいいか、そのきっかけになる話にしたかった。「楽しい映画だったけど気づきがあったよね」というような。また、コミカルにすることで、振れ幅の大きさで見ている人を揺さぶりたいとも思いました。
——出演者の方とも相続の話をされたのでしょうか。
出演者の皆さんも相続を考える年頃なので、撮影現場で自然と相続の話になります。やはり自分の親や知り合いがもめているという話が多かった。
役づくりでは「私たちは悪い人なの?」と聞かれましたが、「違います。前提は善人だと思っています」と答えていました。父親を認知症と偽って、自ら成年後見人になって父親のお金を管理しようとした姉妹も「生活が苦しいから、遺産を先に使えないの?」というちょっとした出来心で、ふつふつとした悪意ではない。そういうことって僕たちの日常にもある。ただそれが相続となると、とんでもないことになってしまう。大好きだった家族を失ってしまうこともある。登場人物に悪人はいません。ただ法律を知らなかった、そういうことを学んでいなかっただけなんです。
「愛」と「許し」がなければ乗り越えられない
——映画を通して伝えたいことは。
「愛」と「許し」です。大好きな人を守るために、そして大好きだからこそ、どこかで許せる。そういうものを親も子も持っていないと、相続という問題を乗り越えられない。
親のニーズを知っているのは家族であって、それをすべて他人に任すのは危険なところがある。私たちも勉強して相続に向き合わないといけない。「先生」が何とかしてくれるでは、愛する家族は守れないと思います。
これから相続する人もされる人も、大好きな家族、そして愛する人を幸せにしたいのであれば、自分の頭がクリアなうちに、少しだけ相続のことを考えてみませんか。
映画監督・田中光敏さんプロフィール
たなか・みつとし/1958年生まれ。2002年、映画「化粧師 KEWAISHI」でデビュー。直木賞作品の映画化「利休にたずねよ」(2013年)、トルコとの合作映画「海難 1890」(2015年)、青春幕末映画「天外者」(2020年)などで知られる。
「親のお金は誰のもの 法定相続人」 三重県の伊勢志摩で真珠養殖を営む大亀家の母親・満代(石野真子)が亡くなった。財産管理の弁護士で成年後見人である龍之介(三浦翔平)が現れ、遺産相続や、父親・仙太郎(三浦友和)の手による時価6億円の真珠が、娘たちの自由にならないことがわかり、巨額な財産を巡る大騒動が巻き起こる。一方、大亀家の三女・遥海(比嘉愛未)は、母を死に追いやった原因は、真珠の養殖を手伝わせた父にあると恨みを募らせていた。そんな父に認知症の疑いが発覚。真珠の争奪戦が繰り広げられる中、誰もが「相続」という家族の問題に向き合ったとき、本当に大切なものは何か、本当の家族の絆とは何かに気づかされていく。たどり着いた真実とは。
シネマート新宿、イオンシネマほか全国公開中
監督:田中光敏 出演:比嘉愛未 三浦翔平ほか
配給:イオンエンターテイメント ギグリーボックス
https://oyanookane-movie.com/
🄫2022「法定相続人」製作委員会
(記事は2023年10月6日時点の情報に基づいています)
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