「伊勢志摩が舞台の映画を」 亡き友との約束果たし完成、6日公開
三重県の伊勢志摩を舞台にした映画「親のお金は誰のもの 法定相続人」(田中光敏監督)が6日、全国で公開される。製作委員長を務めた志摩市の建設会社社長、橋爪吉生(きちお)さん(65)は、亡き友と交わした約束を果たせたとの喜びの中で封切りの日を迎える。
「英虞(あご)湾の風景と真珠をテーマにした映画を作ろう」。橋爪さんが約束を交わしたのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)などに携わった映画プロデューサーで志摩市大王町出身の故・山際新平さん。15年12月に56歳で亡くなった。
橋爪さんと山際さんは、旧船越小・中の同級生。橋爪さんは13年の船越中の閉校にあたり、「母校の思い出に残る映画を作りたい」と山際さんに相談した。山際さんが脚本を執筆し、卒業生や地元住民が協力して映画「校歌の卒業式」(70分)ができ上がった。
この作品をきっかけに、橋爪さんは映画を通じた地域の復興を目指す「志摩ムービークルーズ」を有志で結成し、15年9月に「賢島映画祭」を開催した。この時、審査員を務めた山際さんは「映画で伊勢志摩を元気にしたい」と意気込んでいた。
橋爪さんは山際さんの遺志を継いで、その後も賢島映画祭の運営を続けている。山際さんが残してくれた映画関係者とのつながりの中で、二人の「全国に誇れる、伊勢志摩が舞台の映画を」との約束が徐々に具体化した。橋爪さんは、海の環境の変化でアコヤガイが大量死したことや、山際さんの父親が真珠養殖を営んでいたことを思い出し、「真珠業界を応援する映画になれば」との構想を田中監督に伝えた。20年5月に制作発表にこぎつけた。
22年4月から約1カ月間、伊勢志摩でロケが行われた。撮影期間中、地元ボランティアとして100人以上が携わった。出演者やスタッフへの対応や、ロケ弁の手配になどに奔走する仲間の姿に、橋爪さんは「楽しそうに映画の仕事に向き合っていた山際さんの姿を思い出した」と話す。
橋爪さんたちの自慢の景色は、出演者の心もとらえた。真珠養殖を営む一家の三女を演じた主演の比嘉愛未さんは、9月22日に津市であった舞台あいさつで「3日に一度はホテルから(志摩市阿児町鵜方の)横山展望台まで30分ほどの早朝ランニングをした」と明かした。「穏やかな英虞湾の風景を見て、ぜいたくな時間を過ごして、癒やされた」と語った。
同じく主演の三浦翔平さんは、真珠を探すシーンで英虞湾をクルーズし「ゆったりした空気の中、きれいな英虞湾が印象に残っている」。さらに「この映画から受け取ったものや三重の素晴らしさをみなさんで伝えてほしい」と観客に呼び掛けた。
映画は、成年後見制度をテーマに、「伝説の真珠」を巡る家族の騒動を描くエンターテインメントに仕上がった。昨冬、橋爪さんは映画の完成をふるさとの船越に眠る山際さんの墓前に、こう報告したという。「山際が意図した映画ができたと思う。この映画が、真珠や伊勢志摩の観光の起爆剤になるよう、天国から応援してほしい」【下村恵美】
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