2021年11月2日火曜日

#763 2020舞台告知

 #763 20211102 12:33

https://www.instagram.com/p/CVwi3KMPt_v/

この度、舞台「怖い絵」に出演させて頂く事となりました。
鈴木おさむさん作、演出
「絵画×舞台」新感覚エンターテインメント‼︎

2022年3月4日〜3月21日よみうり大手町ホール
3月24日〜3月27日COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホールにて。

お楽しみに💁‍♀️

『レディ・ジェーン・グレイの処刑』(一八三三年、カール・ドラローシュ作)


怖い絵 泣く女篇 (角川文庫)Kindle版

https://www.amazon.co.jp/dp/B086SJ16WD/



ドラローシュ 『レディ・ジェーン・グレイの処刑』

 1833年 油彩 

246×297㎝ 

ロンドン・ナショナルギャラリー

 Bridgeman/PPS



もっと知りたい「怖い絵」展 (角川書店単行本) Kindle

中野 京子 (

2019


https://www.amazon.co.jp/dp/B081TQ6N1T/




 女王となる運命を引き受けたジェーンは、しきたりどおり戴冠準備のためロンドン塔へ行く。ライオン・ゲートを抜け、短い石橋を渡り、落とし格子を備えたおどろおどろしい城門ミドル・タワーを通って、濠に架けられた長い石橋を渡る。その先がようやく城壁門だ。人々に出迎えられ、ノーサンバランド公からロンドン塔の鍵を受け取る。国王だけが所有できる鍵なので、この時が実質的即位と言えた。
  反逆者の門ではなく、堂々と正門からの入城でありながら、ジェーンはこの後二度とロンドン塔を出ることはできなかった。ノーサンバランド公一派がメアリ逮捕に失敗し、カトリック勢力をバックにしたメアリが逃亡先で女王宣言して内戦が始まったのだ。決着は早い。わずか9日でジェーンは廃位され、ビーチャム・タワーに幽閉の身となる。舅やその仲間もすぐさま処刑されたが、メアリ女王はジェーンに同情的だった。利用されただけなのを知っていたからだ。カトリックに改宗するなら命だけは助けようと手をさしのべたが、ジェーンは信仰を捨てることを拒み、七カ月後に斬首される。花の盛りの16歳。1554年2月12日。真冬だ。花も萎む寒い日であったろう。
  処刑場は──アン・ブーリンの時と同じく──城内の広場タワー・グリーンだった。聖ピーター教会とビーチャム・タワーに鉤形にはさまれた場所に処刑台が設置され、誰でもというわけではないものの、貴族の立会いが許された公開処刑である。そうした立会人の記録によれば、ジェーンの侍女たちは泣いていたが、本人は落ち着きはらった堂々たる態度だったという。
  19世紀フランスの歴史画家ドラローシュは、緻密にイギリス史を研究してこの傑作を描きあげた。背景を宮殿内地下の設定にしたのは、あくまで演劇的効果を考えての上だ。これによって我々は、まるで舞台の観客であるかのような、いや、舞台を通じてジェーンの最期を目撃しているかのような、強い衝撃を受ける。発表時、大評判になり、絵の前に黒山の人だかりができたというのも頷けよう。
  ロンドン留学中の夏目漱石もまた、本作に激しく魅了された一人だ。帰国後に書いた幻想小説『倫敦塔*1』の、クライマックスとしたのはよく知られている。語り口はドラローシュ作品のディスクリプションそのもので、曰く、「白き手巾で目隠しをして両の手で首を載せる台を探す様な風情」「雪の如く白い服を着けて、肩にあまる金色の髪を時々雲の様に揺らす」「毛裏を折り返した法衣を裾長く引く坊さんが、うつ向いて女の手を台の方角へ導いてやる」「台の前部に藁が散らしてあるのは流れる血を防ぐ要慎」「背後の壁にもたれて二三人の女が泣き崩れて居る」「磨ぎすました斧を左手に突いて腰に八寸程の短刀をぶら下げて身構えて立って居る」。 
 ジェーンに寄せる哀惜も、漱石にしては珍しい装飾過多の美文調だ。「蹂み躙られたる薔薇の蕊より消え難き香の遠く立ちて、今に至る迄史を繙く者をゆかしがらせる」「余はジェーンの名の前に立留ったぎり動かない。動かないと云うより寧ろ動けない」。間違いなくドラローシュの画力でもあった。漱石は首がころがるのさえ幻視して曰く、「眼の凹んだ、煤色の、脊の低い首斬り役が重た気に斧をエイと取り直す。余の洋袴の膝に二三点の血が迸しると思ったら、凡ての光景が忽然と消え失せた」。
  絵画は瞬間を描くが、力のこもった作品はこのようにその先まで見せるのだ。噴き出た血が自分の衣服に飛び散った、そう実感させるのだ。
 *1 本文での倫敦塔の文章は、夏目漱石『倫敦塔・幻影の盾』2008年、新潮文庫より引用

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